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税務の勘所Vital Point of Tax

ふるさと納税の返礼品は一時所得 審判所で課税めぐる争いも

2022/10/21

 昨年度にふるさと納税を利用した人は約740万人、自治体への寄付の総額は約8300億円となり、いずれも過去最高を更新した。寄付者へのお礼として送られる特産品などを楽しみにする人も多く、国民の間ですっかり定着した制度となったが、意外と知られていないのが、自治体からの返礼品は一時所得に該当して課税対象になるということだ。

 ふるさと納税の返礼品が課税対象になると聞いて、「寄付のお返しとしてもらったのに、どうして課税されるのか」などと違和感を覚える人もいるだろう。しかし、ふるさと納税の利用者が支払った金額は、返礼品の対価として支払ったものではない。自治体への寄付として支払っており、そのお礼として返礼品を受け取ることは、自治体から経済的利益を受けていることになる。そのため、総務省でもホームページなどで「自治体によっては寄附者へのお礼として特産品を送る場合がありますが、これは一時所得に該当します」などと注意を呼び掛けている。

 ただ、一時所得の計算は「総収入金額-収入を得るために直接支出した金額―特別控除額(最高50万円)」となり、最高50万円の特別控除があるので、返礼品の価格の合計が年間50万円を超える場合や、そのほかの一時所得と合わせて年間50万円を超える場合は課税対象となり、その2分の1が総所得金額に加算されるが、50万円を超えなければ課税されないため、「返礼品は課税対象」ということに気づかない人も少なくない。

 一方で、ふるさと納税で受け取った返礼品の経済的利益について所得税の申告をすべきところ、納税者が申告をしなかったことで、国税不服審判所(以下、審判所)において税務署と争った事案もある(令和4年3月1日)。 

 ふるさと納税制度とは、納税者が自分で選んだ自治体に寄付を行った場合、寄付額のうち2千円を超える金額が一定限度内で所得税と住民税から控除されるもの。

 全国の自治体を応援して地域活性化を図ることが本来の趣旨だが、実際には魅力的な返礼品を狙って寄付する人が続出。各自治体でも多くの寄附を獲得しようと高額な返礼品を送るところが相次いだ。そのため、総務省が「ふるさと納税の趣旨に反する」として返礼割合3割の自主規制を促し、最終的に2019年、自治体からの返礼品を規制する改正地方税法が成立・施行された。

 今回の争いは、ある納税者が平成27年から平成30年まで、すなわち高額な返礼品に対して規制が強化される前の4年間に、自治体131件に対して総額約7千万円の寄付を行い、返礼品を受け取っていた事例だ。

 税務署は、返礼品を受け取ったことによる経済的利益は一時所得に当たるとして納税者の申告漏れを指摘した。仮に、返礼割合がすべて3割とした場合、一時所得の計算上、総収入金額となる経済的利益は4年間で合計2100万円弱となる。4年分を平均すれば、各年500万円は下らない計算で、算式に当てはめれば、一時所得は優にプラスとなる。

 しかし、納税者は「返礼品は寄付の対価であり、返礼品の受領による経済的利益はなく、申告すべき一時所得はない」などと主張した。争点は主に次の2つだ。

・返礼品は寄附金の対価か、それとも謝礼であり経済的利益があって、一時所得の計算に含めるべきかどうか(争点1)。
・各返礼品の価額はどのように評価するか(争点2)。

 審判所は、争点1について「返礼品は、各地方公共団体がふるさと納税とは別に、各地方共団体の独自の取組みにより、寄附者に謝礼として提供されるものと評価すべきであり、ふるさと納税に係る寄附金と返礼品との間に対価性は認められない」と判断。返礼品の経済的利益は一時所得に該当するとしたが、その前提となる認定事実は次のとおり。


①法令上、寄附を受けた地方公共団体が返礼品を提供するものと定めた規定はないこと。
②総務大臣は都道府県知事あてに出した通知等において、寄附金が経済的利益の無償の供与であることを踏まえ、返礼品の送付が対価の提供との誤解を招きかねないような表示により寄附の募集をする行為を行わないよう通知をしていること。
③納税者が地方公共団体から受領した返礼品の価額については、当該地方公共団体に問い合わせることによって確認することが可能。

 また、審判所は争点2について、金銭以外のものをもって収入とする場合の金額は所得税法36条の規定により「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額、(中略)取得の時における客観的交換価値」とされていることを受け、「地方公共団体が返礼品の調達に要した費用が、寄附者における返礼品の受領による経済的利益の客観的交換価値(中略)であると認めるのが相当」と判断した。その理由は次のとおりだ。

1)寄附額に応じた物品等を選定し、調達すると考えるのが合理的で、返礼品の価値を最も把握しているのは、返礼品を調達した地方公共団体であるといえること。
2)地方公共団体と返礼品の調達先事業者との間に特別な動機を挟む余地はなく、客観的交換価値を超える金額で返礼品を調達することはないと考えるのが自然かつ合理的。

 なお、納税者は「返礼品の評価において消費税や送料を含めるべきでない」と主張したが、審判所は「地方公共団体から確認した調達に要した費用の額をもって評価することには合理的な理由があるといえ、当該費用に消費税、送料および手数料等が含まれていたとしても、これを除外すべきであるとはいえない」として納税者の言い分を退けている。

 今回の争いを見て、「50万円以上も返戻品を受け取らないから大丈夫」という人もいるだろう。しかし、生命保険などの満期金や解約金を受取り、「返礼品と合算したら50万円を超えていた・・・」というケースもあるので、返礼品は課税対象であるという点には注意しておきたい。

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